入れ歯とインプラントの違い

東京都武蔵野市吉祥寺 内山歯科医院

院長・医学博士 内山博人

不幸にも歯を失ってしまった場合、その欠損部分をどう補うか、悩ましい問題が存在します。前回の歯の豆知識では「入れ歯」と「ブリッジ」の2つの治療法の違いをご説明いたしました。今回は「入れ歯」「インプラント」との違いについてご説明したいと思います。(前回と一部内容が重複します)

 

<入れ歯のメリット、デメリット>

入れ歯は失った歯の両隣の歯に金具を引っ掛けることにより、外れないように維持する装置です。最大のメリットは残っている歯を削ったりしないため、低侵襲の治療が可能で

「健康な歯を触りたくない」

「天然歯を自然なまま残したい」

という希望の患者さんには適した治療法です。

反面デメリットとしてはやはり着脱式のため、

慣れるまで口腔内に異物感があること、
お手入れがやや煩雑であること、
金具をかける歯に少なからず負担がかかり、時にその寿命を縮めてしまうこと

があげられます。

 

 

<インプラントのメリット、デメリット>

インプラントとは歯を失った部分に、新たに人工の根(インプラント)を埋め込み、歯の機能を回復させる治療法です。
元々歯は歯槽骨と呼ばれる骨に植立されています。この歯槽骨の部分にドリルで穴をあけて、そこにインプラントを埋め込みます。

埋め込んだ後に一旦傷をとじて、3ヶ月から6ヶ月ほど待機期間を設けます。これはインプラントが骨と確実に生着するのを待つための期間です。待機期間後に再度、歯ぐきを切開し埋めていたインプラントを露出させ、その上に土台をネジで連結させて型をとり、最終的な歯を完成させます。

インプラントの最大のメリットはブリッジのように失った部分の両隣の歯を削ったり、侵襲を加えることが一切ない点です。
インプラント治療後は天然歯と同じような感覚で食事をすることが可能になります。歯がないことによる外観や審美的な不具合、発音障害、息漏れなどもなくなり、食事だけでなく人との会話、日常生活のクオリティーにも大きな改善に寄与することができる治療法といえるでしょう。

反対にインプラントのデメリットをいくつか上げてみましょう。
現在歯科医院で起こる医療事故の多くは、残念ながらこのインプラントに関連したものが非常に多くなってきているのは事実です。
一番多いのは顎の骨の中に太い神経が走行しているのですが、インプラント埋める時に顎の骨を切削する際に、ドリルでこの神経を傷つけてしまうことに起因する神経麻痺症状下歯槽神経麻痺)があげられます。
神経は大きく分けて運動神経と感覚神経の2つに分けられますが、この顎の骨の中を通る下歯槽神経は感覚神経に相当します。この感覚神経である下歯槽神経が麻痺すると、処置を受けた側の顎や唇やその下の皮膚の感覚(触覚、痛覚、冷覚、温覚など)が麻痺してしまいます。
神経が受けた損傷の度合いにもよりますが、一度症状がでると回復に長期の時間がかかることが多く(一般的には3ヶ月から12ヶ月)、完全断裂させた場合は永久にこの感覚が消失してしまうこともあります。
麻痺がでている間の長期間、神経の回復を促す薬剤を服用してもらったり、星状神経節ブロックといって首に注射を打って神経回復を促進させる処置が必要になることもあります。

医学的なデメリット以外としては、保険治療の適応外のため高額な費用がかかる処置であることです。(どの医療機関でも相場はおよそ1本40万から55万くらいでしょうか)
当然費用が高額であるため、患者さんとしては「一生使える」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし天然歯が管理を怠れば、歯周病になりやがて抜歯になるように、インプラントも患者さんの管理はもちろんのこと、装着後に歯科医院での定期的なメインテナンスを欠かすことなく継続しなければ、インプラント周囲炎という歯周病と同じ状態になりインプラントが脱落してしまいます。
何も特別な管理が必要というわけではありません、きちんと毎日ご家庭で歯ブラシを丁寧にしていただき、3ヶ月から6ヶ月の間隔で歯ブラシで除去できない汚れを歯科医院できちんと取り除いてもらい、レントゲンでも定期チェックを行うだけです。しかしこの簡単なサイクルができない患者さんにはインプラント治療はお勧めできません。タバコを吸う患者さんも口腔内環境が著しく悪くなる要因の一つとなるためインプラント管理は難しくなります。

 

顎の骨にドリルで穴をあけます

あけた穴の中にインプラントを埋入します。

 

 

インプラント本体の上に、歯の土台となるものを歯肉を貫通させてインプラントと連結させます。

土台の上に歯を装着して完成です。

 

<入れ歯とインプラントの違いについてのまとめ>

入れ歯とインプラントの2つの治療法は、ブリッジによる治療法とは違い、両隣の健康な歯を一切削ったり侵襲を加えることなく、咬むことや審美面を改善させることができる治療法であることです。


健康な歯を削りたくない患者さんは「入れ歯」か「インプラント」の治療法しか実際には選択肢がないわけです。

この2つの治療を選択する際のキーポイントは、欠損している歯の範囲と、患者さんがご自身のお口の中に、どこまでお金やメインテナンスを含めた労力を投資ができるかであるかと思います。

失った歯が多いほどインプラント治療を選択した場合、金額も高額になり患者さんの大きな負担となります。その上でメインテナンスをきちんとされれば、天然歯と同様な快適な日常生活と食生活を送ることができるようになり、大げさな言い方ではなく人生が大きく変わることもあります。

反対に失った歯が数本と少ない場合、入れ歯にすることで口の中の異物感が著しくなり食事のクオリティーが逆に下がってしまうこともあります(場合によっては発音や審美面なども)。
このようなケースでは数本のインプラント治療ですむため、そこまで高額にならない費用で不具合を一気に解決できるため、インプラント治療が有効なケースが非常に多いといえます。

失った歯の欠損範囲が多く、投資やメインテナンスに自信がもてない方は、「入れ歯」を選択されたほうがいいとも言えるでしょう。

当院はインプラント治療を積極的に勧める歯科医院ではありません。数ある治療法の中の選択肢の一つとして説明とご提案をさせていただき、各患者さんのお口の中に一番あった治療を、患者さんご自身に選択していただきます。

また当院のポリシーとしまして、患者さんに不具合がでる可能性がある治療は一切お勧めいたしません。前述の神経麻痺を起こすリスクのある患者さんにインプラントを勧めることもありません。(顎の骨が量が少ない方、インプラントは埋入する部位の近くに神経が走行している場合など)

以上を踏まえて「入れ歯」か「インプラント」でお悩みの方はお気軽に当院にご相談いただければと思います。

<関連情報:入れ歯とブリッジの違い> 

 

 

東京都武蔵野市 内山歯科医院

院長・医学博士 内山博人

 

 

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