持病をお持ちの方はお薬を含めて、事前に確認を致します。
安全で確実な治療を施すために、ぜひご一読下さい。

はじめに

医学の進歩とともに人間の寿命は大きく延びましたが、年齢を重ねるごとに、いわゆる「持病」ともつきあわなければならなくなり、何らかのお薬を毎日飲まれる方も多くなりました。

この「持病」は程度の低いものから大きいものまで様々あり、代表的なものでは高血圧症などがあげられます。

こうした「持病」をお持ちの方を医学用語で「有病者」と定義しますが、この「持病」の中には歯科治療を行う上で、特別な注意や制限がある場合が多くあります。心臓や腎臓、脳に疾患のある方は特に注意が必要なことが多く、通常なら大学病院で歯科処置を受けるようなケースでも、当院で対応できる治療体制を整えております。

その中で特に安全面を考慮しなければならないケースに関しては、必要に応じて当院との連携病院である

東京女子医科大学病院
東京歯科大学病院
武蔵野赤十字病院

へ直接紹介することも可能です。

以下に代表的な全身疾患とそれに関連した歯科治療時の注意事項を説明しております。

持病をお持ちの方
心臓に疾患をお持ちの患者さんへ
高血圧症の患者さんへ
脳梗塞など脳血管障害をお持ちの患者さんへ
糖尿病の患者さんへ
人工透析治療など腎臓疾患をお持ちの患者さんへ
骨粗鬆症でお薬を飲まれている患者さんへ
その他の持病をお持ちの患者さんへ




心臓に疾患をお持ちの患者さん

心臓に疾患のある方が歯科治療の際に問題になるのが、血を止まりにくくするお薬をのまれているケースです。「抗凝固薬」とよばれるもので代表的なものでは「ワーファリン」、「パナルジン」、「バファリン」などがあります。「狭心症」や「心筋梗塞」といった血栓(血の塊)ができて血管が詰まりやすくなっている患者さんや、心臓内部にある「弁の閉鎖不全」(心臓には4つの弁がありそれにより4つの部屋に仕切られています)などで人工弁の置換術を行ったことのある患者さんや、その他「心房細動」などといった不整脈疾患の患者さんが、主にこれらのお薬を内服していることが多いです。

この血が止まりにくくなるお薬は、歯科治療の際、虫歯や歯石除去、歯型をとると入った一般的な処置にはなんら影響はありませんが、歯を抜いたり、膿がたまって歯肉を切るときなどに、血が止まりにくくなるため注意が必要です。昔はこの「抗凝固薬」を処置の数日前から中止して抜歯を行っていましたが、このお薬を中止することで全身的なリスクや合併症を起こす危険があることが最近色々な研究から明らかになり、今では「抗凝固薬」は継続して飲まれたまま歯科処置を行います。

また前述の人工弁の置換術を行っている患者さんは、「細菌性心内膜炎」といった心臓の内膜に細菌感染を起こすリスクがあるため、抜歯処置を行う場合は、処置の前日から抗生剤をあらかじめ内服してもらうことが必要です。ご自身の心臓の病名と飲んでいるお薬の種類を確認して、歯科を受診する際は必ずその内容を伝えてください。また血がどのくらい止まりにくいかを検査する「PT-INR」、「トロンボテスト」血液検体の凝固因子活性を総合的に測定する検査薬のひとつといった血液検査のデータをお持ちの患者さんは、最近の検査結果をご持参ください。




高血圧症の患者さん

高血圧症はお薬などでコントロールされている場合、歯科処置で大きな問題とはなりません(歯科用局所麻酔を打った直後など一時的に血圧が上昇しますが)。しかし収縮期血圧が160mmHgを超えると、抜歯後に血が止まりにくいなどの症状がでます。降圧剤などのお薬を飲まれて入る方は、普段から習慣的に自宅で血圧を測定されていると思います。歯科受診日に血圧測定をされて、普段より高めであった場合は必ずご申告ください。



脳梗塞など脳血管障害をお持ちの患者さん

脳梗塞は血の塊(血栓)が脳の血管を詰まらせてしまうことにより様々な後遺症や合併症を引き起こす病気ですが、過去に脳梗塞を起こしたことのある患者さんは<心臓に疾患をお持ちの患者さんへ>の項目で前述したのと同様に、血を止まりにくくする「抗凝固薬」を必ず飲まれています。虫歯や歯石除去、歯型をとるといった一般的な歯科処置には何ら支障がございませんが、やはり抜歯など出血を伴う処置は注意が必要になります。

心臓疾患と同様にワーファリンなどの「抗凝固薬」を歯科処置前に中止にすると、全身的なリスクや合併症を起こす危険があるため、お薬は継続して飲まれたまま歯科処置を行います。血がどのくらい止まりにくいかを検査する「PT-INR」、「トロンボテスト」といった血液検査のデータをお持ちの患者さんは、最近の検査結果をご持参ください。





糖尿病の患者さん

糖尿病は生活習慣病として広く国民の間に広がっている慢性疾患ですが、最近になり歯周病菌が、血糖値を下げるのに必要なインスリンの働きを阻害することが色々な研究からわかってきました。簡単に言うと歯周病があると、糖尿病を悪化させる可能性があるということです。歯周病を放置すると血糖値のコントロールが悪化し、歯周治療を行うと改善することがわかってきたのです(もちろん肝心の糖尿病そのものの治療が必要ですが)。

またこれとは逆に、糖尿病があると歯周病になるリスクが高くなり、すでに歯周病がある人は悪化しやすくなるということもわかってきました。このように歯周病と糖尿病は双方に密接なつながりがあるのです。糖尿病患者さんは通常の歯科治療では特に制限はありませんが、口腔内に出現する数々の痛みや腫れなどの症状を、糖尿病が悪化させやすくさせるので注意が必要です。具体的には抜歯後の傷が治りにくかったり、歯肉が腫れた時など、通常であれば消毒処置と抗生物質の内服で改善するところが追いつかず、点滴が必要なほど腫れてしまうことが時として起こります。糖尿病の患者さんは歯科を受診する際は必ず自分が糖尿病であることを申告し、「Hb a1c」などの血液データをご持参ください。



 

 



人工透析治療など腎臓疾患をお持ちの患者さん

人体に不要な老廃物が体内にたまると、糞便や汗、尿といった形で体外に排出されます。腎臓はこの老廃物を濾過する働きがありますが、腎不全などで腎機能が低下された患者さんはこの排泄機能の低下を補うため人工透析を行います。人工透析を行っている最中は、血液を固まりにくくする「ヘパリン」というお薬を体に循環させながら行っています。人工透析処置後もしばらくこの「ヘパリン」の薬物作用が体内に残るため、出血を伴う歯科治療を行う際は注意が必要になります。

一般的に透析は一日おきに週3回行うことが多いですが、虫歯などの通常の歯科治療は人工透析を行った日に処置しても差し支えはありません。しかし抜歯など出血を伴う処置の場合は、前述の「ヘパリン」の薬物作用が体内から抜けた非透析日に行う必要があります(人工透析を月、水、金に行っている患者さんの場合は火、木、土に抜歯を行う)。

その他の注意事項としては、抜歯後に抗生剤や鎮痛剤を飲んでいただきますが、多くのお薬は内服すると腎臓で処理されるため(肝臓で処理されるお薬もあります)、人工透析を行っている患者さんの場合、通常のお薬の量を飲んでしまうと腎臓に大きな負担がかかり腎機能を悪化させてしまうケースがあります。一般的には抗生剤は通常の半量や1/3量に減量して飲んでいただき、腎臓に負担をかけないように配慮する必要があります。

当院では必要に応じて患者さんの内科主治医と相談の上、歯科処置に必要な薬の量を決めさせていただきます。また「BUN」、「Cr」、「24Ccr」といった血液検査や尿検査などの腎機能検査のデータを手元にお持ちの患者さんは当院受診の際はご持参ください。

 

 



骨粗鬆症でお薬を飲まれている患者さん

骨粗鬆症の患者さんが歯科治療時に、特に注意しなければならないことは一昔前まではありませんでしたが、ここ数年、骨粗鬆症患者さんに処方されている「ビスホスホネート製剤」と呼ばれるお薬が、歯科処置時に重篤な副作用を引き起こす可能性があることがわかってきました。このビスホスホネート製剤は色々な名前で幾種類かあり、代表的なものでは、ゾメタ、ベネット、アクトネル、と呼ばれるものがあります。

毎日飲むタイプもあれば週1回、月1回だけ飲むタイプのものもあります。このビスホスホネート製剤の重篤な副作用というのは歯を支えている周囲の骨「歯槽骨」や顎の骨そのものを腐って壊死させてしまう「顎骨壊死」を起こすことです。ここ数年世界中のあらゆる医療機関から報告されるようになり、WHO(世界保健機関)や日本の厚生労働省からも注意勧告がでるようになりました。この副作用は通常の虫歯なのどの歯科治療では起こりませんが、多くは抜歯などの出血を伴う処置を行った時に発症します。最近わかってきた副作用のため、今なおその治療法や予防法が確立されておらず研究段階にあります。ビスホスホネート製剤を飲まれている患者さんすべてにこの副作用がでるわけではなく、発症率は0.0515%と報告によって様々です。しかし発症率は低いのですが、一度この「顎骨壊死」を起こしてしまうと、治癒するのがなかなか難しく壊死した骨が口腔内に露出したままの状態になり、食事や衛生面で非常に不便な思いをしなければならなくなり、また消毒のため頻回に歯科医院にも通院が必要になります。お薬の作用が長い期間体内に留まることが最近の研究で明らかになってきており、抜歯などを行う場合は最低でも3ヶ月間は、安全のためお薬を止めるのが望ましいとされています。

しかし歯が痛んで抜歯が必要な状態になってから、3ヶ月間も待つことは現実問題難しく、ビスホスホネート製剤を飲まれている多くの患者さんはこうしたリスクを承知の上で歯の処置をしなければならなくなります。整形外科などでこの「ビスホスホネート製剤」を処方されている患者さんは、歯科受診の際に必ず申告してください。また癌など一部の悪性腫瘍の患者さんの骨転移の治療薬としても使用されていますので、こちらも同様に注意が必要です。



その他の持病をお持ちの患者さん

これまでに挙げた以外にも、例えば肝臓疾患(肝炎や肝硬変)、甲状腺疾患(バセドウ病や橋本病)、肺疾患、リウマチ、膠原病、など歯科治療時に注意を必要とする持病をお持ちの患者さんにも対応可能です。

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